負の遺産ではあるが、なかなかの見応え。

先日調べ物をしていたらたまたま見つけた展示イベント「Fashionable Silhouettes Exhibition」。18世紀の入植の時代から20世紀までのファッションの変遷をナショナルトラストNSWのコレクションを通して辿るという展示です。
どこぞの美術館でやるんだろうと思ったら「Old Goverment House(旧総督邸)」という見慣れない単語が。調べてみると、シドニーの西の都市パラマタ(Parramatta)にある「世界文化遺産」だと書いてあるではないですか。
先に感想を言うと、展示も会場も素晴らしかったです。ただ、後で追い調べをしてみると様々な想像ができてとても深かった、とも思いました。
やはりオーストラリアの歴史には影が付きまとう。
それはこれからもずっと続くんだと思うと何だか切なくなりますが。
オーストラリアの文化遺産:囚人遺跡群

オーストラリアはご存知の通り、18世紀から19世紀にかけてはイギリス帝国の流刑地として機能していました。約16万人(女性・子供含む)の囚人がオーストラリアの刑務所に移送され、全土に数千の監獄があったそうです。廃止された奴隷制度の代替労働力として囚人が強制労働を強いられていたわけです。加えて言えば、囚人を含む入植者の定住地の拡大が、アボリジナルの人々の土地を奪う結果につながっていきました。
その囚人に関連する、タスマニア州、ニューサウスウェールズ州、西オーストラリア州、ノーフォーク島に11か所現存する施設が2010年に「オーストラリアの囚人遺跡群」としてUNESCOの世界遺産に登録されました。この遺産群は、大規模な囚人の移送と強制労働者を用いた帝国主義に基づくヨーロッパ勢力による植民地拡大の現存する重要な証拠と捉えられています。
▼以前オーストラリアについて調べてみたブログ記事。某国はむちゃくちゃやってます。

シドニー近郊は2か所
この囚人遺跡群、シドニー近郊には2か所存在します。ひとつはハイドパークの目の前にあるハイド・パーク・バラックス。ハイド・パーク・バラックスは、1818年から1819年にかけてマッコーリー総督の命によって設立された政府による初の収容所。囚人でありながら建築家でもあったフランシス・グリーンウェイが設計したそうで、現在は博物館になっています。実は何度も目の前を通ったことはありますが、中に入ったことがありません。ぜひ今度行ってみようと思います。
そしてもうひとつが、シドニー中心部から電車で30〜40分くらいのNSW州第二の都市パラマタにある「オールド・ガバメント・ハウス」です。
オールド・ガバメント・ハウス(旧総督邸)

この旧総督邸は1799年から1818年の間に囚人によって建てられたもので、NSW州の最初の10人の総督の邸宅として、または別荘として使用されました。オーストラリアで現存する最古の公共建築物なのだそうです。囚人たちは料理人や女中、その他邸宅に付随する様々な仕事を担っており、その他海兵隊員や兵士は総督とその家族の補佐官やボディガードとしてそこに駐留していたとのこと。
ちなみに現存する建築物は、マッコーリー総督時代に改築したもの。各総督は入植地の拡大を主軸に植民地運営を指揮し、時には移民たちや兵士たちの反乱に対応したりと多忙な生活を送っていたそうですが、この場所で家族と過ごす時間が癒しになっていたりしたのでしょうか。
▼歴史に興味がある方はぜひこちらを。

館内をふらり
まず入口でチケットを渡すと、ボランティアの方々が「個人的に歴史をお話ししようか?」と声掛けしてくださいました。実は学芸員の方が説明をしてくれる無料ツアーもあったのですが、時間が合わなくてひとりでぷらりと来てしまった&アジア人がひとりだったためかなり浮いていた筆者。
でも高齢の方とマンツーマンは少々気まずいのとゆっくり妄想したかったのでお断りし、引き続きひとりでぷらぷら見学を続けることにしました。
帰ってきて補足情報を調べていたら気になることがたくさん出てきたので、無料ツアーの方が様々な逸話が聞けて楽しかっただろうなあと思いました。
エントランスからキッチン
まずはゆっくり1階を見て回りました。
ピアノのあるお部屋は社交のために使われダンスなども行われていたとか。
紳士淑女なりきりセット

200年前のピアノフォルテ

キッチンがとっても面白かったです。
質素に見えるかもしれませんがキッチンの棚やテーブルはよくメンテナンスされており、小物一つをとっても丁寧に作られている感じがわかりました。ただ、主人のお部屋の家具のクオリティとは大きな違いがありました。
奥の小部屋にはパンを焼くオーブンが

インド式カレーのレシピがある棚

リビングとベッドルーム
主にリビングルームとして使われていたお部屋の家具は豪華でした。お子様が遊ぶスペースなんかもあって、暖炉の前でママに本を読んでもらっていたのかな、とか、お子様たちはこのカウチでうたた寝したりしたのかな、などなど妄想がとめどなくはかどりました。
壁のミラーが貴重なのだそう

優雅なカウチ

寝室は天蓋付きのベッドがあってちゃんとヨーロッパ風味。お子様用の小さなベッドがあったり、外に簡易トイレがあったり、何となく家族の生活のようなものも垣間見えます。カンガルーの毛皮のマットがあったりするのがオーストラリアっぽかったです。
天蓋付きふわふわベッド

マホガニー製の簡易トイレ

他には小さなサロン(男女別)がいくつかありましたし、2階に上がる階段も美しかった。
2階では今回のメインであるイベントが行われていました。どんどんシンプルになっていくファッションの変遷もさることながら、やはりリアルなものを観ると、その時代に住んでいた人の妄想が止まらなくなってしまったのが楽し過ぎました。このデスクにはこの衣装を着た総督が座って手紙を書いていたんだな、とか、このベッドではあのレースの襟のパジャマを着たお子様を寝かしつけているメイドの姿があったんだな、とか。
靴や水着なども少々使用感があったのがとてもよかったです。
より良い未来のための遺産
オーストラリアの歴史は掘り下げれば掘り下げるだけズーンと重いものがありますが、たとえ負の遺産だとしてもこうして文化的価値のある建築物+史実として残そうという意思は素晴らしいと思います。囚人遺跡群を利用して積極的に子供たちへのワークショップが行われているそうですし、より良い未来につながる理解と機会を提供しているなら、保護する意味があるというものです。
皆様も機会がありましたらぜひ。
Picture Gallery












館内を歩き回る幽霊に会えるかも
旧総督邸には隠れた人気ツアーがあります。それは夜の館内をあかりひとつで見回るという月に1回のイベント、ゴーストナイトツアー。この館、どうやら「出る」らしいのです。それを逆手にとってツアーにしてしまうあたり、なかなかオーストラリアっぽいではないですか。
背景を考えると色々な恨みをかっていそうですし、出るのも頷けるというか……周りのパラマタパークには川があって夜は静かそうなのでちょっと怖い雰囲気があるんですよね。
ツアー後にはお菓子や軽食も出るそうなので、ご興味のある方はぜひ。
ちなみにR16指定です 笑

DATA
Old Government House
所在地:Cnr Pitt and, Macquarie St, Parramatta NSW 2150
Webサイト:https://www.nationaltrust.org.au/places/old-government-house/
注意:展示は2025年11月9日(日)まで
木・金 午前10時~午後4時 / 土・日 午前11時~午後4時 / 最終入場 午後3時30分
チケット:大人$15(※優待などはチケットカウンターで要確認)
おまけ:パラマタの人気店HARVEY’S Hot Sandwich

せっかくパラマタに来たので、何か名物を探そうと調べていたら大人気のホットサンドのお店が駅近にあるではないですか!「サンドイッチを発明したイギリスがベースのオーストラリア食文化」に「バーガー大好きアメリカ食文化」をプラス、そんなホットサンドを提供する「Harvey’s(ハーヴィーズ)」。
店内はレトロアメリカンなインテリアで、キッチンはバタバタと活気のある雰囲気。ちょうどお昼時でしたがピークは過ぎていたので列は長くなかったのです。が、頼むとき緊張してしまって、思っていたメニューの下にあったホットサンドを頼んでしまった筆者。痛恨のミス。
これは「フィリーチーズステーキサンド」。

フィラデルフィアの名物・フィリーチーズステーキをホットサンドにしたなかなかヘビーなサンドでしたが、外側サクッと中はホワッとしたパンに、程よい味付けの薄切りステーキとチーズがバランスよくマッチしてとても美味しかったです。ピーマンが入っていたので少々の焼き肉感(さらに色も少々悪い)はありましたが。
次こそはメニューの上にあった「ナッシュビルホットチキンサンド」を注文することを誓いました。
DATA
HARVEY’S Hot Sandwich
所在地:4.05, 12 Darcy Street, Parramatta NSW 2150
Webサイト:https://www.harveyshotsandwiches.com/