シドニーから2時間半、森の中の美術館【ブンダノンアートミュージアム&ザ・ブリッジ】

車がないと辿り着けない深い森の中。

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ブンダノンアートミュージアム

先日、オージーの友人がずっと行きたいと言っていた「ブンダノンアートミュージアム」に行ってきました。

実はこの美術館、「行ってきました」と簡単に言うことが少々はばかられるくらい行きにくい場所にあります。Googleマップで検索しても、公共交通機関を利用したルートはちゃんと表示されませんし、自家用車利用でも、シドニー中心部から後半30分の山道を含めて2時間半くらいかかります。

来客を拒む美術館

しかし、困難(?)を経て辿り着いた先には、美しい自然と建築、アートワーク、確かな満足感を得られる体験が待っていました。

アイコニックな建築と自然災害

アイコン的建築「ザ・ブリッジ」

〈ブンダノン – アートミュージアム&ザ・ブリッジ〉は、景観の中に埋め込まれた美術館と、宿泊施設を備えたクリエイティブ・ラーニング・センターであるザ・ブリッジ(The Bridge)の2つの建物で構成され、全長160mの橋として洪水により形成された地形の上に架かっている。

引用:【 】TECTURE MAG

この美術館は映画「ハリーポッターと死の秘宝 Part2」でネビルが爆走した”ホグワーツ橋”のようなデザインで、丘の間を埋めるように建っています。

美術館周辺は山火事や洪水が多く、しばしば深刻な被害に見舞われる土地。この美術館建設プロジェクトにあたっては、気候変動に対する解決策を盛り込んだサスティナブルなアプローチがなされました。
「ネット・ゼロ・エネルギー」をテーマにしたデザインは火災や洪水に対しても対応可能、貴重な芸術作品は地下に収蔵・展示し、地中の安定した温度や湿度を利用して空調システムの負担を減らしているとのこと。さらには、ザ・ブリッジは洪水地域によく見られる高架橋のように水を防ぐのではなく通す設計になっているそうです。ちなみに、ブリッジがまたいでいる丘は洪水の爪痕のようです。

敷地内には宿泊できる施設もあり、学生向けのワークショップやイベントなどでも使われているようです。

美術館の周りの自然は、できる限り手を加えないように保護されています。
駐車場から美術館の入り口に行くまでに、野生のカンガルーがご飯を食べているところに遭遇。モッシャモッシャと牛のようにゆっくり草を咀嚼しながらベトっと座り込む姿は、なかなか興味深かったです。

のんびりモッシャモッシャ

野生のカンガルー親子(帰りもいた)

いつもは穏やかな川辺

近くを流れるショールヘブン川

アーサー・ボイド

アーサー・ボイドArthur Boyd:1920年7月24日-1999年4月24日)はこの美術館のキーマン。
メルボルン出身の画家(彫刻家・陶芸家)で、ロンドンとこの土地を行き来をしながらアーティスト活動を行い、1978年には再びオーストラリアの永住権を得ました。晩年はオーストラリアの芸術や文化の発展のため、妻のイボンヌと共にこの土地を国に寄贈したようです。

風刺的メッセージ性のある抽象画もあれば、彫刻や陶芸もあり、幅広い感性の作品が鑑賞できます。少なからず戦争の影響を受けているであろう彼の作品は、人間のダークな部分が垣間見えるものが多い印象で、優しい色彩の風景画もどこか不思議な怪しさと闇を感じます。

アーサー・ボイドのアトリエは一般公開されています(注:現在は週末限定の公開)。筆者たちは金曜日に伺ったのですが、学芸員の方が親切にも期間有効のチケットをくださいました。この美術館から少し離れた場所にあるのですが、とても素敵そうなのでまた訪れてみたいと思っています。

コレクション以外の期間展示

アーサー・ボイドコレクション以外の展示も、美術館全体として本当にバランスが取れていました。今回訪れた時に鑑賞した展示はふたつ。どちらも点と特徴的なカラーを用いた作品で、そのメッセージは同じように感じました。
後で調べてみると、この空間はまさにアーサー・ボイドのビジョンである、「すべての人のための創造性と繋がりの場所」”working arts centre”を体現したもののようです。
どちらも2025年10月5日までの期間展示です。

David Sequeira「The Shape of Music」

点と色とリズムを想像する作品

カラーの重なりを見るだけでも楽しい

主に色彩と幾何学を用いて鑑賞者に瞑想体験を生み出すことをライフワークとしているDavid Sequeira氏の展示。流れるサウンドに耳をすませながら譜線上に鮮やかな色彩で描かれた図形を眺めていると、いつの間にかしっかりとメディテーションの世界に入り込むことができます。

与太話ですが、アートワークを説明するビデオの中でDavidさんが上下アディダスの3ラインジャージを着ていて、場面転換するたびで違う色のアディジャーを着ているものですから(さすが色彩学の博士だからか)それが気になって仕方ありませんでした 笑

Betty Kuntiwa Pumani「maḻatja-maḻatja those who come after」

このエネルギッシュな作品に何を感じる

10メートル×3メートルの大きな作品も

点描画を描く時の集中力たるや

Betty Kuntiwa Pumani氏は南オーストラリア州北西部出身のアーティストで、特徴的な「赤」で大地の美しさや力強さを表現する作風で知られています。「Ma ḻ atja-ma ḻ atja 」はピチャンチャチャラ語で「後世の人々」を意味する言葉。「私たちが今行うことはすべてすでに未来の世代に属している」という理解が込められているのだそうです。
作成中の様子を記録した映像が流れていましたが、その集中力はすさまじく、作品に溢れるエネルギーは当然の成果なのだと思いました。

日帰りのドライブ旅にいかが?

館内のカフェは、小さいながらもフードのクオリティは高く、風を感じながら外でいただくこともできます。
すぐ近くの川も普段はとても穏やかで平和ですし、週末は近隣の森を探索するブッシュウォークやワークショップなども開催されるとのこと、現在冬季休暇中の子どもたちに大人気だそう。
なかなか行きづらい場所にありますが、シドニーから向かう道中にはワイナリーや牧場が多くあります。見学やワークショップをしている所も多いので、ツアーと組み合わせて楽しむのも良さそうです!

DATA
Bundanon Art Museum
所在地:170 Riversdale Rd, Illaroo NSW 2540
Webサイト:https://www.bundanon.com.au/

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